野生らん探検隊2024 その1 コアツモリソウ・セッコク・カヤラン

コアツモリソウ 5/2

和名は小敦盛草の意。分布は北海道道南から四国・九州中部あたりまで。林内の落ち葉がふわふわに堆積したところに自生

栃木県日光周辺では常緑樹の林内なら簡単に見ることができる野生蘭のひとつかもしれない。写真の自生地を知ったのは8年ほど前になる。市街地を見下ろすように伸びた尾根をヤマツツジやすみれの時期に歩いたのがきっかけだった。

尾根先端がストンと落ちたような市街地側の登山口から急坂を登り詰めて稜線に出た。尾根にはしっかりした登山道があり、いかにも市民のハイキングコースのよう。この日期待したのは実は里山のすみれで、最低でもタチツボスミレの群生ぐらいはのつもりだったのだが、アカマツやヒノキの中を進むと トウゴクミツバツツジとヤマツツジ はあらわれたが、いっこうにすみれはあらわれなかった。1時間ほどでやっと出てきたのはフモトスミレのみ。2時間弱ほど歩いて気になった植物3種だけ?。「あー、なんて日だ」というフレーズが頭に浮かび、気持ちはあきらめムード。そんな時、下山口まで数mというところで目に入ったのがコアツモリソウだった。

2回目、登山道から外れて崖を下りてみた。そこは予想もできないほどのコアツモリソウ群の別天地であった。下山口は車からでも1,2分、ともすればビーチサンダルでも可能な雰囲気なので、その後、開花を狙って訪ねるのが春のルーティンになっている。


 セッコク 5/21


和名は漢方薬として入ったセキコクが変化したものといわれる。分布は三陸海岸~南西諸島までと広く、四国・九州ではよく見られる。園芸では江戸時代から続く長生草として葉芸が楽しまれ、最近で花色や花形にも人気が出ててきている


国内に広く分布するセッコクだが、日光の有名な杉並木もセッコクの自生地としてよく知られている。私が20代の頃、山野草ブームが始まったばかりの1970年代頃に栽培を始めた地元愛好者と話していた時、台風のあとに杉並木へ行ってセッコクをよく拾ったものだという話があるったほどだ。そんな噓のような話から十年ほど経過した台風あとに一度だけ出かけたことがあった。ところが、杉並木に入る段階でセッコクどころか折れた枯れ枝で道路は塞がれ、早朝から警官が交通規制まで行っていた。そうはうまい具合にいかないというのが実感であった。

この春、思いもしない知人から杉並木のセッコクが咲いています、という情報を得た。しかも、とてつもない梢ではなくて高さ数mにある枝だという。これは出かけない訳にはいかない。丁寧な情報通り出かけるとすぐに見つけることができた。花がないと並木の緑に溶け込んで見つけづらいが、白花が咲いているとなんてことはなかった。栃木に住んで約40年、実際に杉並木のセッコク、しかも開花を見たのは初めてだった。

三脚とカメラをセットして撮影に取り掛かった。

撮影しているとほどなく、この樹の横にある家の奥さんらしい方が声をかけてくれた。この家ではどこへ出かけるにもこの枝の下を車でくぐって出かけるらしい。見通しのききずらい並木に出るにはいつも慎重で、セッコクがあるのは知っているが、咲く花をゆっくり見ることはあまりないという。おそらく、この家がある限りこのセッコクはずっと安泰だろう。

来年は新芽が伸び始める前、今年の約1週前あたりが適期かな? と思い車に戻った。あの家の益々の弥栄を願いたいものだ。


カヤラン 5/2

和名は榧蘭の意。分布は茨城・石川・隠岐・対馬を結ぶ線以南で、伊豆七島や屋久島・種子島に自生しない温帯性の蘭で、樹の幹に着生する常緑小形。花の大きさは1㎝強ほど

カヤランという花を知ったのはもう40年近い前のこと。月刊「趣味の山野草」の秋口あたりの号の表紙で見たのが初めてである。当時の私には、表紙一面の数輪の写真はとても刺激的で、そして魅力的だった。写真とは恐ろしいもので、その後数年、洋ランを見慣れていた私は、掲載された花の大きさが実物大と思いこみ、いつかは実物を見てみたいと思い過ごした。今考えると、そんなに刺激的なら図鑑をちゃんと読まなくちゃと突っ込みを入れたいところだ。

初めて見たのは数年後の山草展で、ヘゴに着生したように縛りつけられていた。今でこそカヤランの永続的な栽培は無理に近いと知られ展示されることはないが、当時はまだ栽培ノウハウの創世期のような頃で、今では考えられない、いわゆる難物といわれる高山植物や野生蘭を多く見ることができる時代だった。初めて見た花の小ささにびっくりした記憶がある。

今回、情報をもとに訪ねた自生地はキャンプ場や運動場も併設したファミリー向けの公園はずれ。目立たぬように、数グループのファミリーの話題にならないように、カメラを持った通りすがりの小市民よろしく、早朝の早い時間に出かけた。風のない時間という幸運もあり十数分で撮影を終えた。欲をいえば本当はあたりを気にせず、右から左から上から後ろからもう少しじっくり眺めたかったというのが本音である。

記・はしば



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